明暗
久しぶりに1冊本を読み終えた。
好きな作家の本だけれど、これがけっこう難解でてこずった。
『密偵』(J・コンラッド/土岐恒二訳、岩波書店)
正直、読んでいてわけがわからない。
読みながら苦痛に思いつつも、途中で投げ出さなかったのが不思議でしょうがない。
20世紀初頭、ロンドンで暗躍するアナーキスト(革命家、反政府組織)をめぐる物語なのだけれど、章ごとに主体が変わり、結果的にこう来るのか!と思わせる内容。
ここまで人間の「闇」を書けた人はいない。
コンラッドさんに対する印象である。
短編集を読んだのが最初で、そのあと有名な『闇の奥』、『西欧人の眼に』を立て続けに読んだ。
どれも暗く難解ではあるけれど、思わず読み進めてしまう力強さがある。
蟻のようにはびこる人間、欲望と権力を貪る人間、理想社会のために必要悪を行使する人間、世界を見過ぎていて手元に気がつかない人間、小さな自己世界だけで生きている人間、死を間近にしてなお生へ執着して離れられない人間・・・。
「人生はあまりその内実を覗き見られることに耐えられない」(461p)
夢、希望、穏やかな日々、無邪気さ、楽しさ、明るさ・・・。
でも、一見してなんの悩みもなさそうに見えて、人や社会が必ず抱えている暗い部分。
そうしたところは、見たくないし、見られたくもない。
だけれど、実のところお互いは存在を認め合っていて、住み分けていて。
暗黙の了解が通用している間はいいけれど、いったん闇が顔を出すと、その勢いたるや恐ろしいくらいに貪欲で。
だからといって、明るい部分ばかり見ていたら貪欲さに負ける日が必ずくる。
明暗を知ることで、人間の奥深さをコントロールできると思う。
分かりやすい、面白い本も好きだけれど、年に1冊こんな本もいいかな。
暗くなったところで、わたしの「人生の内実」の話も直近に迫っている。
今週末、伊豆大島にボランティアガイドに行ってきます。
うまく乗り切れますように!